社長の想い

「屋根」に関わり60年の商社が、職人気質の業界に新風を吹き込む。

白神商事株式会社 
代表取締役 白神 康一郎 氏

屋根材と太陽光発電を扱う商社

白神商事株式会社は、瓦をはじめとする各種屋根資材と、太陽光発電システムの卸販売を手掛ける商社である。

岡山県下全域、数100社に及ぶ屋根工事店と取引があり、県内では業界トップの地位を誇る。豊富な取扱商品と専門知識を強みとし、工事店に対してきめ細やかな情報提供や提案をおこなっている。

また納品に関して、白神商事ならではの独自のサービスがある。一般的には、注文された商品を一括で工事店に納入するが、白神商事では、工事店がその日に使うだけの資材を、使う時間に合わせて現場に直接配達している。大量在庫を抱えない工事店にとって、この配慮はとても喜ばれるものだという。

「現場への小口配達には、もうひとつの意義があるんですよ」と話すのは、2015年11月より社長に就任した白神康一郎さん。現場に納品に行くたびに、営業スタッフは職人たちに気軽に声を掛ける。なにげない雑談を交わす中で、現場の抱える悩みやニーズを汲むことができるという。

「職人さんたちに、少しでも気持ちよく働いてもらえたら。『職人さんが元気なら、いい家が建って住む人が喜び、結果的にうちの会社も発展する』というのが、代々伝わるうちの信条なんです」。

都会の大企業で武者修行

小さい頃、たまに事務所に顔を出しては、社員たちにかわいがってもらっていたという白神社長。両親や社員、出入り業者たちの働く様子を見て育つ中で影響を受け「知らず知らずのうちに、自分の役割はなにかと考えていました」と静かに語る。

その後の経歴は興味深い。国立大大学院を出て、有名証券会社に就職。M&Aの部門に在籍し、エリートと呼ばれる集団の中で猛然と働いて能力を発揮。そして5年後、すっぱりと退社する。

あえて大企業の厳しい競争の場に身を投じたのも、あらゆる経営知識が必要となる部署を希望したのも、すべては家業継承を見据えての「修業」のため。「ここで通用しなかったら、帰ってもきっとやっていけないだろうと思っていました」。

2013年、岡山に帰り、白神商事に入社。現場に出るが、もちろん最初は瓦運びも満足にできない。あまりに異なる世界からやってきた社長の息子に対して、社員や工事店の経営者が若干の距離を感じたのも無理はなかった。しかしそれも想定の内、ひとりで太陽光発電の事業を立ち上げ、黙々と営業に取り組む。確かな実績を上げるうち、いつの間にか周囲に認められていった。

職人一人ひとりの想いを伝えたい

社長就任後に立ち上げたウェブサイト「やねいろは」。
これまで一般の人とほとんど接点のなかった屋根工事店を広く世に紹介し、エンドユーザーと繋げることを目的としたサイトである。併せて、事務所横にショールームも設けている。

「工事店はホームページなどをあまりもたないし、そもそも職人さんというのは自分の仕事についてあまり得意に語ろうとしませんよね。でも、一人ひとりは熱い想いをもって、本当に真摯に誠実に仕事に取り組んでいる。そんな職人さんや工事店の経営者の姿を、多くの人たちに伝えたいと思ったんです」。

工事店経営者などの人となりを紹介する記事は、白神社長と担当社員が丁寧に取材・執筆。職人それぞれの個の素顔、得意分野が伝わってきて、とても読みごたえのあるものとなっている。

地元である岡山からスタート、反響を得て、「やねいろは」は全国に展開している。「東京などでは、新しいビジネスモデルという視点で関心をもってくれる方もいます。仕組みの提供だけでもうちは利益になるかもしれないけれど、でもやっぱり『想い』を抜きにはできない。『職人の想いを届けたい』という動機に共感してもらえないと、結果的にはうまくいかないと思うんです」と強い意志を見せる。

「自分の想いが誰かに伝わることが、仕事をしていてうれしい瞬間。経営をしていると時には不安になることもありますが、共感してくれる人が必ずいるから、また進んでいこうと思えます」。

関わる人が幸せになれる仕事を

「やねいろは」の全国展開のみならず、すでに海外も視野に入れ、挑戦を続ける白神社長。その根本にあるのは「関わる人を幸せにしたい」とのシンプルな想いだ。

「証券会社を辞めたのも、周りからもったいないと言われる選択でした。でも自分の人生の役割を考えると、働いて収入を得るだけではなくて、どうせなら社会に対してなにかいい影響を残していきたいと思ったんです。それならば、自分にとっては家業を継いで経営することが一番。そして継いだからには、利益を上げて社員を豊かにすることはもちろん、業界全体をもっともっとよくしていくことが使命だと思っています」。

業界に変化を起こすべく全国を飛び回る白神社長のもとには、さまざまなビジネスの引き合いが舞い込んでくる。

先行きの見えにくい時代だが、かじ取りの方向を決めるのは目の前の利益よりも、「この仕事が人を幸せにするか」との価値基準。その確かな羅針盤を手に、はるか目指す先へと迷うことなく進んでいく。