社長の想い

音楽を通じて体得した哲学で社員を重宝し、良品を生み出す鉄工所。

有限会社 タック精工 
代表取締役 鈴木 康資 氏

常に前を向く姿勢

タック精工は、クルマのミッションを構成する部品やブレーキのピストン、農機具や建設機械のミッションなど、精密機械の製造を行っている会社である。創業は、1990年。ちょうど「バブル崩壊」元年である。日経平均株価史上最高値(35,000円台)を記録したのが1989年の大納会(証券取引所の12月最終営業日)。翌年10月には20,000円まで株価は下落。製造業、とりわけ自動車関連は、その波をまともに被った。同社もその例外ではない。

「バブルが弾けてから独立したので、仕事もないしね」。鈴木康資社長はふり返る。「毎日、どこに釣りに行く?って。川でザリガニを釣ったりして。本当に仕事がなかった」。しかし、釣りばかりしていられないので、顧客開拓のため、営業へ。

そうは言っても業界全体として仕事が減っているなかで営業をしても、どこも仕事がないのは同じだった。「知り合いの会社に顔を出しながら少しずつ、少しずつ。そのうち誰かが助けてくれて、紹介してくれたりして仕事が来るようになりました」。そんな創業当時でも、鈴木社長は決して悲観していなかった。

迎えた転機

少し長くなるが、鈴木社長の発想が顕著に見える言葉を、そのまま引用してみたい。「いま思うと無謀な独立でしたが、やるしかないと腹をくくっていたところもあります。ただ、何となく前向きにやっていたら、誰かが背中を押してくれたり、道を外れそうになると戻してくれたりと、なるようになると思っていました。人とのつながりが、前へ押し出してくれるんですね。ちゃんとレールの上に乗っかるようにとか、坂道になったら背中を押してくれたりとか。それは従業員や取引先、女房だったり…」。

そして、とても謙虚な言葉が聞かれた。「どこの企業にも似たり寄ったりの経験はあると思いますよ。自分一人でやったと、言う人は言うかもしれないけれど、自分の力だけでは無理。どんな仕事でもそうだと思う。だれかが後押ししてくれる」。

やがて、三菱自動車からパジェロミニのミッションの製造の仕事が舞い込み、転機は訪れる。1994年のことだった。「考えられないくらい忙しくなりました。毎日朝から夜12時くらいまで機械を動かしていましたから」。メーカーは当初、月産2,000台を見込んで同社に部品の注文をしていたのだが、翌月は5,000台、その翌月は8,000台、そして1万台と、注文数は凄まじい勢いで増えていった。

「その当時、スタッフは3人しかいなかったので、友人に夕方5時から夜12時まで手伝ってもらってね。結局、技術的なことも誰かに助けられ、注文をこなしていくことも誰かに助けられ、人任せの人生で。でも、すごい仕事をさせてもらった。有り難いばかりで…」と謙遜する。

音楽のある生き方

ここで、鈴木社長のもう一つの顔を紹介しておきたい。実は鈴木社長、ボーカリスト兼ギターリストでもある。中学2年でギターを始めて以来、高校、大学はバンド活動に明け暮れた。そしてここ数年、大学時代のバンド仲間が子育てを終えたこともあり、再結成したと言うのだ。趣味とは言え、数十年も続けていると、どこかしらその活動が生き方に影響するものである。

そもそもバンドは、様々な見方があるにせよ、自分のできないパートを人に委ねることで成立するもの。「音楽はアンサンブル。そこにコーラスが入る。つまり、僕らのバンドで言うと、ギターが2人とベース、そこにボーカルやコーラスが入ってくる。このなかで音的にバランスが必要なんです。ボーカルだけが大きくてもおかしいし、ギターだけが目立ってもいけない。それはバランスなんですよ。人の音を聞きながら、自分のパートが調和するように演奏する。高校生の時は、我が我がとなっていましたけどね」と笑顔。

ライブも同様だと言う。「選曲をして、お客さまを飽きさせないように2時間半のライブを組み立てていくのもバランスの問題。結局ものづくりは一人で完成するということはあまりなくて、値段も技術もアンサンブル。みんながバランスをとってやっていかなくてはいけないもの」。話が経営と重なって見えた。

人生もアンサンブル

その意識は、社員に対しても同じである。
「僕ね、大事だと思っているのは、誰でもできそうに思われる仕事をずっとやってくれる人。そういう人って、ものすごく貴重。そんな仕事を馬鹿にせず、嫌がらず、休まず仕事に来てくれる人はなかなかいない。どんな仕事でも、継続に勝るものはないんですよ。例えば、ダンボール箱を折って作る仕事でも、1ヶ月続けた人間と、今日来た人間では、絶対に生産量や完成度が違う」。
そうやって、社員を評価し、重宝する。社員がやっていることを、絶対に軽んじたりしない。その姿は、バンドで演奏するときの姿勢そのものである。

だから、同社のスタッフは非常に定着率がいいのが特長だ。それは、同社の仕事において不良品が極めて少ないことにつながっている。

そして、やはり話は音楽と重なった。「人生もアンサンブルというところがあって、自分の人生は自分が主人公。それに対して、大きな音を出してくれる人もいれば、小さな音を出してくれる人もいて、そのすべての音が混じって、自分の人生という音楽が成り立っているのですね」。

その発想は、創業当時の「信念を持って、何事にも一生懸命取り組んでいれば、きっと誰か助けてくれるだろう」という前向きな発想につながる。「でも」と、鈴木社長は最後に付け加えた。「人から助けてもらおうと思うと、愛嬌がないとだめ。笑顔って大事ですよ」。そういって、屈託のない笑い声が部屋に響いた。

有限会社 タック精工