社長の想い

岡山の食文化を支え続ける創業150年超の醤油メーカー。

とら醤油株式会社 
代表取締役 三宅 正記 氏

江戸時代末期に創業

とら醤油の創業は、江戸時代末期1860年のこと。実に150年を超える歴史を誇る会社であり、皇室への献上品として選ばれたこともある由緒正しい醤油メーカーである。

日本には、キッコーマン食品、ヤマサ醤油、ヒガシマル醤油などの大手も含めるとおよそ1,500社以上の醤油メーカーが存在する。とら醤油もその一つであるが、全国区のブランドにも勝るとも劣らない存続は、規模ではない価値が認められているからにほかならない。

それは、地域に根ざした独自の味であり、食文化であり、それを守り続けている企業である。「岡山県民の皆さまには、濃いめで旨味のあるちょっと甘いのが好まれます」とは、創業家の七代目で現社長の三宅正記氏。

創業の地は、現在の本社工場所在地(倉敷市酒津)。すぐそばを流れる岡山県三大河川の一つ、高梁川の伏流水のおかげで、原料となる水に恵まれたこと。また、醤油づくりに欠かせない大豆と小麦は備中平野で、塩は瀬戸内海の塩田で生成され供給されていたこと。さらに、高梁川下流域からは瀬戸内海につながり、当時物流の根幹を成していた海運にとって抜群の地の利があったことも恰好の立地条件となり、事業は発展していった。

オリジナルの味を求めて

同社が地域の食文化の形成には欠かせない存在だったことを、1945年ごろの流通が物語っている。当時、「金虎会(キントラカイ)」と言われる特約店が地域ごとに存在し、町内の家庭それぞれに枡で量り売りしていたそうだ。醤油は、日常生活に無くてはならないものとして、地域の隅々にまで行き渡った。

この特約店の制度はスーパーや小売店の出現により姿を潜めていったものの、いまでも県内の量販店の多くにはとら醤油が並んでいる。一般家庭のほかに、事業用の需要も大きな割合を占めている。飲食店や給食事業者などは、メイン調味料として大手メーカー産も使われることが多いが、店舗オリジナルの味を付けるための醤油としては、同社に根強いニーズがある。

それは、事業者それぞれの要望を丁寧に拾い上げ、独自の配合などで対応しているからである。しかし、微妙なさじ加減による変化をとらえなくてはならない勘と根気の必要な仕事でもある。

「お客さまは、こんな感じとイメージで言われることがほとんどです。そのニュアンスをしっかりとらえて、打ち合わせを重ね、ご満足いただける商品をつくりあげる。出来上りの商品に対して『この味だ!ありがとう』と言っていただける瞬間が何よりの幸せです」と三宅社長は表情をやわらげる。こうして積み重ねられたオリジナル商品はおよそ200種にのぼる。

消費者目線を大切に

豊富な商品点数。その裏には、商品開発室の存在が大きい。そこでは、週1回、新商品に関する会議が開かれている。歴史の上にあぐらをかかず、常に市場のニーズに応えようとするだけでなく、市場に積極的にコミットして牽引していこうという姿勢を感じさせられる。

例えば、近年開発された商品に「黄ニラしょうゆ」がある。本醸造醤油と岡山県産の高級食材「黄ニラ」に鯛・昆布・椎茸エキスをほどよくブレンドした万能しょうゆである。黄ニラ独特の風味と甘い味が特徴だ。岡山県の特産品とのコラボレーションを果たしたところも、地域に根ざす同社ならではの着想だと言える。

商品をつくることに長けている一方で、PRし、販売することにも底力を持つ。それは、長年培ってきたネットワークがあるからだ。同社は、流通の川上に存在するメーカーでありながら、一軒ずつ社員が訪問して御用を聞き、納品している。サザエさんに出てくる「三河屋さん」のイメージに近い。消費者に近い視点で市場をきめ細やかに見つめ、商品化できるのは、同社のこのようなシステムにもヒントがありそうだ。

創業200年をめざして

「創業150年の次は200年をめざして企業を存続させることがわたしの使命です」と三宅社長は確かな口調でかみ締める。「外的要因があっても、着実に伸びていかなければいけません。わたしは、企業は人なりと思っています。ですから、人を育てる会社にしたいと考えています」。そして、次の3つを人に求める姿勢として挙げられた。
・ 精一杯努力しつづける人
・ 正しい努力をしつづけられる人
・ 結果が出てもでなくても、ちゃんと努力しつづけることのできる人
すべて「努力」である。三宅社長が努力の人であることを物語っている。

正しい努力も、めざすべき目標がなくては始まらない。そこで、社長として中長期ビジョンを掲げ、それを全社員の求心力に、社員一人ひとりの目標としてかみ砕いていく。

「社員一人ひとりの幸せの定義には違いがあるけれど、その幸せの実現のために、仕事をしてもらいたいと思っています。もちろんそれには、社員それぞれが自身の目標を定め、自ら努力することも必要です。だからこそ、会社としてできること、例えば、環境づくりや教育体制など、できることはどんどん支援していきたい」。あくまでも、社員を思う気持ちを第一に持つ。

その根底には、「凡事徹底」(平凡なことを徹底して行う)の精神が流れる。奇をてらったパフォーマンスではなく、愚直なまでに当たり前のことを人には真似できないほど一生懸命やる。醤油という食文化の当たり前は、三宅社長のこのような人生哲学が支えている。

とら醤油株式会社