社長の想い

ホタルが飛び交う水辺の会社。地場に根づき特化した技術力発信。

ムカイ鐵工株式会社 
代表取締役 向井 克彦 氏

アグレッシブな姿勢こそが成長の要

岡山県東部に位置する和気町に小さな川が流れている。吉井川支流の金剛川だ。この金剛川の目と鼻の先にある自然環境に恵まれた地に、先代の社長である向井次男氏が鉄工所を昭和30年に興した。

「父親はモノづくりが根っから好きなタイプで、三井造船で何年か働いた後、自分で作ることを自由にやりたくて独立したそうです。創業当時は、この辺りは見渡す限り田んぼばかり。ご近所の農家さんの鋤を作るなど、村の鍛冶屋さんとしてスタートしたそうです」と、向井克彦社長。

“小さなものから大きなものまで、鉄のことなら何でもやろう”という姿勢は、その当時、高度経済成長期の日本情勢と相まって事業領域を順調に広げていった。農機具部品から自動車部品、タンクやサイクロンといった大型製缶物などの製作まで、鉄に係わる仕事は大小を問わず貪欲に取り込むことで、技術の吸収とノウハウの蓄積を重ねながら会社を大きくしていった。特に、建材会社とタイアップして製作した鋼製脚立は爆発的にヒットし、その当時の業績を牽引した。こうしたアグレッシブな姿勢は、現在にも脈々と受け継がれて成長を支えている。

天災が転換期となり、新しい事業に着手

ムカイ鐵工は現在、各種産業機械や鋼構造物(鋼材の加工や組立による工作物)、水門など、企画構想から設計・製作・施工・メンテンスに至るまでトータルに手がけている。売上の構成比としては、民間7割、公共3割の割合だ。

「東京の大学を卒業して地元に帰ってきたのが昭和51年。その時に記録的な大雨をもたらした台風で、金剛川が氾濫。地域一帯が水害に見舞われました。弊社の工場も水浸しで、私自身も消防団員として災害の後始末に駆り出されたほどでした。その時に、河川を修繕工事のために建材を積み込んだトラックが何度も行き来するのを目にしました。車両ナンバーを見ると、かなりの遠隔地からだったので、“何とかうちでもやりたい”。やはり、地元の農家の方が作業できなくて困っているのを間近で見聞きしていましたから…」と、向井社長。

その当時ムカイ鐵工は、下請け企業からの脱皮が大きな課題であり、会社の方向性を決める時期に直面していた。そして、2年後に活路を求めて、公共の水門事業という未知の世界へ飛び込んでいくことになる。

「小回りのきく会社」を目指す

「ある日突然、父親から“お前、図面を描け”と言われました。もちろん、公共工事の入札には、提出書類が必要なことはわかっていました。私自身も下請けばかりでは面白くないと感じていましたが、まさか私が設計を担当するとは夢にも思っていませんでした。知識や経験が全く無かったので、まさに暗中模索でした」と、その当時を懐かしそうに話す向井社長。

“情熱があれば、何とかなるものだ”。この時の実体験は、父親から息子に与えた宿題だったのもかも知れない。やがて、岡山県下の市町村から水門工事を数多く受注し、事業の柱の一つとして成長していく。

一方で、民間事業も、小さな部品の加工や塗装だけでなく、大きな機械や装置の組み立てや据付けまで、仕事の幅が広がり、下請け以外のオーダーメイドの受注が増えていった。

「お客様と親しくさせてもらっていると、いろいろな相談事やご要望が出てきます。その時にできないと言えばそこでビジネスは終わりです。尻込みしないでやることが大切です。自社内で課題を解決できなければ、外部で協力会社を探せばいいのです。“ムカイ鐵工に頼めば何とかしてくれる”。そんな積み重ねがお客様との信頼関係やパートナーシップを強くしていったのだと思います。お客様にとって“小回りのきく会社”でありたいですね」と、向井社長。

社員みんなが長く働ける会社にしたい

金剛川は、昭和51年と平成2年の水害で、和気町に大きな被害をもたらしたのを契機に、平成7年より河川の改修や整備が始まり、平成12年には、“水辺の楽校”を兼ね備えた川として生まれ変わった。

“水辺の楽校”とは、子どもたちがホタルを観察したり、魚つかみや水遊びをしたり…、自然と触れ合う遊び場や学習の場として整備された空間で、そのプロジェクトのメンバーとして、向井社長が1.3Kmの河川敷の設計デザインを担当した。

「私自身、子供の頃からよく遊び、水門事業を始めるきっかけとなった川なので、いろんな意味で思い入れがあります。地域の方や子供たちに喜んでもらえるのは本当にうれしい」と、目を細める向井社長。休日には、河原で社員やその家族、お客様が集まってバーベキューを楽しむ。自然に囲まれた中で、人と人をつなぐ交流の場になっている。

「社員みんなには元気に定年まで働いて欲しいと考えています。それが地場に根づく中小企業の役割や使命だと思うし、社員やその家族の幸せ、地域社会でいきいきと働くことにつながっていくのではないでしょうか」と、向井社長。ムカイ鐵工の特化した技術力は、豊かな自然環境に恵まれた金剛川がきっと源泉になっているのだろう。